昨年の9月、リーマン・ブラザーズが破綻したのをきっかけに、金融危機が一気に深刻化した。日経平均は10月末に7162円90銭に下落し、26年ぶりの安値に沈んだ。その後やや戻したが、結局12月30日の大納会では、8859円で終わり、昨年と比べて42%の下落となった。この株式・金融市場の不況の影響は実体経済にも及び、いまや世界経済全体が100年来の長期的な不況に陥りつつあると懸念されている。この原因のすべては、欧米とくにアメリカ金融資本の強欲な振る舞いのせいにされているが、果たしてそうだろうか。私は第一の要因は“飽和”であり、第二の要因は“格差”だと考えている。
まず飽和について言えば、文明先進国の生産と消費の関係は、いまや極端なアンバランスになっている。例えば自動車の販売は一挙に30~40%も落ち込んだが、ある意味で当然のことである。いま世界中の自動車メーカーが2年間ないし3年間一斉に製造を停止しても、耐用年数を考えればドライバー達は全く痛痒を感じないだろう。メーカーはそれでも無駄に生産を続けていたのだ。同様のことは、衣類や、住居についてもいえる。食料だって決して不足していない。日本だけは自給率40%以下というので騒いでいるが、無駄と飽食を自制したらかなり向上する。まして休耕地などを再生させたら、どうなるだろう。更にアメリカその他の農業国の潜在生産力を考えれば、世界の潜在充足率は大幅にアップする。つまり文明国は、いまや生産力において飽和しているのだ。したがって世界経済の基調は、基本的に不況モードといえるのである。ここにきて、それが顕在化したに過ぎない。
もう一つの不況原因は格差である。ただしその意味は、日本国内で取り沙汰されている生半可なものではない。先進国と途上国の格差である。これは換言すれば文化の違いとも言えよう。確かに途上国では、モノが不足している。しかしモノを手に入れるにはお金が必要だ。途上国にはそれが無い。したがって文明国で生産しても、それを購入することができない。このギャップを埋めるお金を稼ぐには、途上国も先進国の文明を取り入れて、近代的生産を行う必要がある。つまり文明の格差を取り除かなければならない。しかしそれは多分不可能だろう。何故なれば、文明は文化の下で育まれるからである。幸か不幸か、日本や中国の文化は西欧の文明を受け入れることができた。しかしアフリカやアラブの文化は、西欧の文明を受け入れないだろう。しかしそれができなければ、途上国には資金の循環をもたらす生産と消費のプロセスが成立しない。現在、かろうじて途上国と文明国の間に交流が見られるのは、地下資源の売買だけである。厳密に言ってこれは西欧型文明の生産・消費の循環サイクルとはいえない。私が格差という意味は、このようなギャップのことである。かくして二つの文明は融合することが無い。したがって先進国型(西欧型)の飽和は、途上国型文化圏への進出によって活路を見出すことができないのである。
飽和による不況と、文化格差による対策の無効性。この二つの要因によって、いま先進国が直面している不況を、短期間で克服するのはかなり困難であろう。
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