財務省によると19年12月末現在、国の借金は800兆円を越えたというという。日本の国家予算の規模は80兆円程度だから、その10年分だ。この数字を見て政策担当者や評論家の一部は、まるで財政破綻が迫っているように騒ぎたてる。しかし一方では、日本の個人金融資産は1545兆円あるから大丈夫という論者もいる。国の借金800兆の殆どは国債であり、その所有者の大部分は国民だ。したがって相殺すると、まだ745兆円も資産オーバーだというのだ。
この論議の決着が、未だについていないのは実に不思議なことだ。たんなる解釈論ではなく、理路整然と黒白がつけられないものか。経済学者や財政学者はいったい何をしているのだろう。いらいらさせられるので、素人なりに考えをまとめてみた。
まず国の借金と、個人の財産というのは非対称すなわち次元が違う。これを相殺するのは妙な話だ。極端な話だが、アメリカの総資産から日本の総借金を引き算したとして、その差額に意味はない。相殺計算を意味あるものにするには、資産と負債を同一の次元に置かなければならない。それには、錯綜している概念を以下のように整理する必要がある。
まず、最上位の経済主体として「国家」を定義する。国家を構成するサブの経済主体は①政府、②地方自治体、③企業法人、④個人、⑤の5つである。たんに「国」というだけでは、この5つの経済主体を区別できない。政府と国家を混同し、一種の丼勘定にしてしまう。これを避けるには、上の区分によってまず国の借金を、①政府の借金(負債)と言い換える。この金額が800兆である。負債があれば資産もあるはずだ。国民財産統計によると政府の資産は106兆になっている。②の地方自治体は負債が100兆円だ。それに対して資産はどうか。県所有の施設など色々あるだろうが、ここでは政府と同じく負債の8分の1として、12兆と仮定しよう。③企業法人については資産は国民財産統計によると、資産は1390兆円で負債は934兆円である。④個人は資産が1545兆円で、負債は400兆になるらしい。⑤その他は、金額が小さい割りに内容が複雑なので省略する。
以上をまとめると、国家経済を構成する政府、地方自治体、企業法人、個人すべての資産合計は3053兆円である。同様にして負債合計は2334兆円になる。したがって資産合計から負債合計を差し引くと、純資産719兆円が求められる。こうしてみると、資産面で見た日本の国力はたいしたものだ。800兆円ぐらいの借金にはびくともしないと思われる。
ただし我流ながら、この一連の計算をしてみると、一国の財政に関する理論はあまりにも貧弱だ。私が利用できたデータは国民財産統計と国民経済計算だけだった。したがって道路や港湾さらには国防施設などの膨大なインフラは、資産として計算できない。これらのインフラは年次予算で調達されるので、単年度で処理されるため、繰り越されないからだ。つまり資産にはなっていない。かりに資産にすれば減価償却計算が必要だ。しかし現在の予算制度は、会計論でみると単式簿記だから計算不可能だ。早急に複式簿記に移行すべきだろう。補足しておくが、以上の計算には土地や建物も含まれていない。これらをどう扱うかを明確にした理論がないし、単式簿記では処理できないからだ。しかし土地建物を資産計算の対象にしないのはおかしいと思う。坪当たり何百万円もする土地は、日本中で何坪あるだろう。建物にしても、超高層ビルを筆頭に何棟あるだろう。これらを計算に入れたら、国家の資産は天文学的な数字になるだろう。これらを計算しない理論的根拠はあるのだろうか。
財政や経済の専門家は、なぜ国の財産についての明快な理論や提言を創造できないのか。お互いが勝手な解釈と、意見を言い合うだけなのだ。これほどの重大なテーマに定見はないのかと聞きたい。
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