TPPには極めて多くの課題が含まれているので、賛否の議論が錯綜している。とくに反対意見をみると、農業関係の既得権維持にこだわる勢力、そのメンバーが保有する票を目当てにする政治家、郵政民営化反対派による国民皆保険制度崩壊への危惧アピールなど言いたい放題という感じがする。そして、その被害妄想的な意見の根拠が薄弱な点を指摘すると、情報を十分に伝えないからだと開き直る。しかし情報不足と言っても、この問題はこれから討議しようというのである。それを先取りして、某大国の陰謀などと騒ぐのはあまりにも大人げないと言いたい。しかしこの空騒ぎも、最近になってどうにか方向性が定まってきたようだ。
前にも述べたように、TTP問題がこのように大きくなった発端は、今まで熱心でなかったアメリカが近ごろ、これに本格的に参加して自国経済の相対的な地盤沈下を、盛り返そうと考え始めたからである。それからもう一つ。十年ほど前から著しく台頭してきた中国の勢力を、本気で押さえようと考え始めたからである。欧米の強国が、後進国の際だった伸張を押さえるのは今に始まったことではない。その最大で最初のターゲットにされたのは、かつての日本である。潜在的には人種差別の意識があったのかもしれない。そのあげく、いわゆるABCD包囲網が形成された。Aはアメリカ、Bはブリティッシュすなわちイギリス、CはチャイナそしてDはダッチすなわちオランダである。このグループにアジアのチャイナが含まれているのは、当時の日支関係からみて不思議なことではない。
この包囲網は日本にとって実に過酷なものであった。たとえば日本にとって唯一の外貨獲得の手段であったシルク製品の輸入をストップさせた。一方、石油や鉄、ゴムなどの戦略物資の殆どを売らないというのだ。その結果として日本は、成算のない戦争に踏み切らざるを得なくなったのである。
因果は巡ると言うべきか、いまアメリカにとって目障りで台頭著しい中国が、環太平洋同盟の形成によって、再び封じ込めのターゲットになろうとしている。もちろん現代は地政学的な世界環境の変化が大きいので、嘗ての対日包囲網のように、露骨でハードなものにはなり得ないだろう。それでも中国にとっては、極めて不愉快な出来事であるし、かなりのダメージを受けることにもなるだろう。
TPPの狙いが分かりにくいとか、被害妄想的な意識から反対を唱える勢力の論拠が、全く故なしとは言わないが、以上のような観点に立てば、少しは納得できるのではないだろうか。かねてからこのブログで言っているように、「世界は腹黒い」のである。お人好しの日本がその旗頭になる必要もないし、出来もしないが、少なくとも国益を大局的に考える限り、TPPに参加するのは正しい選択だと思う。
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