2012年5月12日土曜日

ユーローは立ち直れるか


このところ新聞テレビが報じるユーロー危機については、ビジネスマンのみならず一般市民の間でも、大いに関心が高まっている。それも当然のことで、我われ日本人にとって、ヨーロッパ文明は憧れの的であり、その暮らしぶりには一種の羨望さえ感じてきたのだ。その経済がかくも脆弱とは、驚きの感を禁じ得ない。しかし冷静に考えてみると、ヨーロッパといっても一律ではなく、色々な国があるのだ。とくに産業の近代化という観点でみると、意外なほど貧弱な国が多い。具体的にユーロに加盟している国名を挙げると次のようになる。
アイルランド、イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、キプロス、ギリシャスペイン、スロバキア、スロベニア、ドイツ、フィンランド、フランス、ベルギー、ポルトガル、マルタ、ルクセンブルク、アンドラ、コソボ、サンマリノ、バチカン、モナコ、モンテネグロ(イギリスとスイスはユーローに加盟していない)。
以上のうち人口3000万人を越えるのは、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポーランドぐらいで、その他は殆どが1000万人程度か、それ以下の小国である。さらにこれらの中で、産業や経済の面で存在感を示すことが出来るのは、わずかにドイツとフランスだけなのだ。他はほとんどが第一次産業と第三次産業がメインであって、雇用やGDP増大に貢献する近代型の第二次産業が極めて弱い。製造業が全く無いというわけではないが、多くは小規模な企業である。保守的で、技術革新に熱心でなかったツケが回ってきたと言わざるを得ないのだ。
 ユーロ諸国がこのような貧弱な産業構造にも拘わらず、我々に強い存在感を示してきたのは何故か。理由の第一は、これらの国々が繁栄していた過去の残影と、現在の実態とを混同しているからだ。第二の理由は、この地域では国籍に拘らず個人の交流や移動が自由だったので、彼等の才能とその成果はこの地域共通の資産として認識されていることだ。例えばショパンはポーランド人であるが、活動の拠点はフランスである。またアインシュタインはドイツ生まれだが、兵役を逃れるため国籍を捨てた。その後は無国籍のまま幾つかの大学を渡り歩き、最後にとった国籍はスイスだった。つまり我々の、彼等の出自についての認識はヨーロッパ人であって、特定の国ではないのである。
 しかし現実の経済問題となると、以上二つの認識は明らかに錯覚である。第一の過去の残影については、役に立っているのは僅かに遺跡に依存する観光ビジネスだけであって、産業近代化の面ではむしろ阻害要因である。また第二の才能の共通化については、芸術や科学の分野はいざ知らず、ビジネスの分野では国別に峻別されなければならない。要するに我々が思い込んでいたユーロー圏のアドバンテイジは、現実の経済・ビジネスの分野では存在しないのである。以上の観点で眺めてみると、近いうちにユーロ圏の産業競争力が高まるとは考えられない。それどころか弱体化はいっそう進むであろう。 

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