2007年11月1日木曜日

評論家は楽だ

  以前のことだが、ある専門雑誌のコラム欄を担当したことがある。期間は1年である。それまでにも著作の経験はしていたが、いずれも専門家向けの実務書であった。したがって他人の仕事や考え方を、評論するようなものではなかった。
  件のコラムを担当したのは、学者が3名、ルポライターが2名、それに私を加えた合計6名である。編集長の希望としては、当時の産業振興策や大企業の経営について、辛口の評論を行うことであった。
  連載が始まると、他の執筆者の筆致はとても軽快にみえた。ひたすら難渋したのは私だけだった。どうしたらもっと手際よく書くことができるか。大いに悩んだ結果、やっと原因がわかった。私は実務家の仕事と、評論家の仕事を混同していたらしい。
  簡単に言うと、実務家の仕事は問題の発見と解決がワンセットになっている。したがって解決できないことが分かっている問題を、問題といってはならない。問題だけを言い立てる実務家は軽蔑される。しかし評論の仕事は、問題の発見または提起だけで済むのである。
  評論家と実務家の違いに気づいた後は、コラムの執筆がとても楽になった。問題は無数にある。それを取り上げるだけでよいのだ。それこそ快刀乱麻、言いたい放題だ。だからといって間違っているわけではない。私はいつの間にか、正義の騎士のような気分に浸っていたのである。

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