2012年3月3日土曜日

複式簿記を使わない日本の財政システム

石原東京都知事は、東京都の財政が健全な理由として、複式簿記の適用を強調している。まさに卓見だと思う。彼がそう言えるのは、一橋大学の出身であるからだ。一橋大学の元を辿ると、旧制の東京高等商業学校である。当時、官立の高等商業は全国で十数校あったが、そこでの教育の目的は、産業・ビジネスの実務を教えることであった。このほか専門学校は工業技術の実務を教える高等工業学校、農業の実務を教える高等農林学校など産業別に数種類あって、日本の経済を支える中堅人材の育成に大いに役だった。
 一方、その上位に位置づけられた帝国大学はどうであったか。発端の話に戻れば、経済・ビジネスに関する実務は全く教えなかった。この領域でかろうじて関連があるのは経済学部であろうか。ただし、ここでは複式簿記は教えない。それでも卒業後は、いっぱしの財務官僚として実務に携わるようになっていた。
 現在、日本の国家財政や地方財政の分野で引き起こされる問題の多くは、実はこの複式簿記を適用しないシステムに起因している。驚くべきことに、日本の財政を支える基本システムは単式簿記なのである。単式簿記とは、現金の出入りだけを記録する大福帳システムである。周知のことと思うが、念のためにその問題点を挙げておこう。
① 現金の出納記録しか出来ない。
② 従って現金の授受を伴わない借り貸しの処理や、その繰り越しは別処理になる。
③ 資産の減価償却を処理できない。そのため固定資産はすべて当会計年度の費用になる。
④ したがって正確な固定資産管理ができない。国有財産の正確な金額評価ができない。
⑤ 繰り越し処理ができない単年度方式になるため、期末には未消化予算を無理に浪費。
⑥ 年度を越える長期プロジェクトは、財政予算システムでカバーできない。
⑦ そのため長期にわたる国家プロジェクトの立案が難しい。発想が短期的になる。

 何故このような不合理なシステムがまかり通っているのか。不思議に思われるかも知れないが、前述したように理由は極めて単純である。帝国大学の法学部や経済学部を出て大蔵省に採用されたエリート官僚が、複式簿記を知らないからである。そのため実務を知らない素人でも理解できる単式簿記を採用したのである。一方の複式簿記というのは、中世のベネチュア王国時代に開発された会計手法であるが、極めて合理的な会計手法で、ずいぶん古くから世界標準になっている。その完璧さはピタゴラスの定理に匹敵するとさえ言われている。そのため現在では一般の企業はもちろん、財政面でも主要国の殆どが使っている。これを用いない日本の財政システムは、例外といえるだろう。エリート官僚がこれを使わない理由は前述したが、果たしてそんなことで済むのだろうか。

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