前回のブログ「素人が気にする経済問題」で、残しておいたのは以下の3つである。その後、いろいろ考えて一応の答えを出しておいた。正しいかどうかは分からない。皆さんの御意見を承りたい。
1)偏りがなくなればどうなるか
わずか9%ほどの人口で、世界におけるGDPの44%をカバーしている先進国の生産面でのアドバンテージは、急速に失われつつある。きっかけは、中国の経済開放政策であった。早くも世界の工場といわれるようになったこの国を、先進各国は競って供給拠点として利用するようになった。たとえば日本の消費者は、中国製文房具のほとんどを、100円で手に入れることができる。アメリカの場合は、もっと徹底している。こうして多くの先進国は、高度な技術を要する製品以外は、ほとんど生産を止めてしまった。しかし、その高級製品も次第に浸食されつつある。この動きは中国だけに止まらず、インドや東南アジア、南米など多くの後進国に広がった。こうして、価格破壊を伴う生産拠点は世界的な規模で拡大し、これらの国の労働者の多くに雇用機会を与えるようになった。彼等の所得水準はまだ低いといっても、従来と比べたら大幅に向上している。しかも彼等が消費する商品の価格は安い。かくして後進国に於ける生産と消費は飛躍的に増大している。今ではインド、東南アジアさらにはアフリカに於いてさえ、テレビ、エアコン、冷蔵庫などの電化製品は市場に氾濫している。それどころかパソコンや自動車などの高度製品さえ、安値で数多く市場に出回っている。
この状態は、今まで先進国に偏っていた生産や消費を、世界的に平均化することになるから、基本的には好ましいことである。しかし一方では深刻な問題も孕んでいる。地球資源の急激な浪費とそれによる枯渇である。今や資源としての植物、動物、鉱物などの総量は急速に枯渇しつつある。消費のスピードが生産のスピードを越えはじめたからである。世界人口は2050年には91億人に達するという。この時期になると、世界に於ける先進国の人口比率は5%程度になり、GDPの比率は20%以下になるだろう。
2)先進国の経済はどうなるか
このままでは先進国の経済は成り立たなくなる。各国は抜本的な産業・経済戦略をうち立てなければなるまい。
その第1はアメリカである。
この国が仕掛けた経済グローバル化の弊害は、まるでブーメランのように自らの産業構造を直撃した。工業製品の多くが競争力を失い、それを作る工場労働者は仕事を失った。そのため失業率は10%を越えた。オバマ政権は、回復をはかるため再び製造業の活性化に努力している。たとえば対策の一つとして、若年労働者を増やすために移民を増やしている。そのため3億人を越える人口になったが、それがプラスになるか否かは分からない。
第2はドイツである。
ドイツと日本の産業構造はよく似ている。たとえば製造業の比率は、どちらも同じように20%前後を維持してきた。工業技術の水準も高く、機能や精度の高い機械製品には定評がある。経済運営も堅実で、いまではユーローを支える屋台骨になっている。ただ本稿のテーマである後進国の追い上げと、それに伴う世界経済の平準化が到来したらどうなるだろう。いくら超高性能のマザーマシンを開発しても、それを購入して模倣して安く作り、コモディティ製品を大量に生産する後進国のやり方に対抗できるだろうか。
第3はイギリスである。
イギリスとアメリカの経済思想をみると、類似点が多い。本質的に両国はアングロサクソンの気質を備えているからであろう。たしかにアメリカは移民の国だから、民族的にはイギリスとは違う。しかし少なくとも政治・経済の中枢的な権力を握っているのは、この血統に属する人たちである。スポーツだけではなく、政治、経済のルールやスタンダード作りは常にこの人たちだった。とくに近年における国際金融のルール作りでは、瞠目するほどの活動ぶりであった。ニューヨークと並んで、ロンドンシティは今なお世界金融ビジネスの中心である。しかしこの分野を除くと、イギリスの産業は実に寂しい。今後の産業・ビジネスステージに於いて、この国に期待できるものは少ない。
第4はフランスである。
この国の産業構造は一風変わっている。芸術・文化の国として、我が国には多くの心酔者がいるが、意外な側面も持っている。まず武器輸出国としては、世界第三位である。輸出先はアラブ首長国連邦、ブラジル、ギリシャ、インド、パキスタン、台湾、シンガポールなど極めて広範に及んでいる。宇宙航空産業のウエイトも高い。その代表作がエアバスである。軍用航空機の輸出も多い。ただハイテク産業面でやや出遅れの感があり、第二次産業の面では、ややバランスが欠けているという自覚があるようだ。それを挽回するために、新産業技術の開発力強化をめざす政策を強化している。一方、農業では欧州一の産出国である。この特徴をどう生かすかは、今後の課題になるだろう。ただ後進国の擡頭による、世界経済の勢力関係の変化については、上述の3国と同じくあまり気にしていないようだ。とくに昨今のようにユーロの危機となっては、世界人口70億時代を見据えた産業戦略どころではないのかも知れない。
3)日本はどうすべきか
では日本はどうか。GDPが中国に抜かれて3位になったが、そんなことは問題にする必要はない。本質的な問題は、工業生産面で後進国の追い上げに直面している状況に、どう対応するかである。上の「偏りがなくなればどうなるか」でも述べたように、生産・消費に関する世界の分業体制は大きく変化したのである。周知のように現在における産業構造は、以下の5つに分類されている。
① 第一次産業・・・農林漁業
② 第二次産業・・・製造業
③ 第三次産業・・・金融業、物流業、商流業
④ 第四次産業・・・IT産業
⑤ 第五次産業・・・ファイナンス(投機)産業
今まで上で述べてきたのは、この5分類のうち第四次産業までは、いずれ後進国に追いつかれるということであった。そして従来の日本は、第4次産業時代までは常に半歩遅れで欧米企業に追随し、最終的には同レベル乃至それを凌駕する位置を獲得してきた。しかし今や欧米諸国が第5次産業で破綻したとなれば、今後は自前で新産業を創造しなければならない。私はそれを第6次産業と名付けることにしている。然らばその内容はどういうものか。
いうまでもなく第6次産業の創出には、従来とは違う考え方とアプローチが必要である。まず考え方について言えば、文化と文明の違いを認識することから始めなければならない。通常はこの二つは明確には区別されていない。歴史学者でさえ混同している例が多い。しかし両者の違いは明らかである。簡単にいえば、文明は文化に包含される下位概念である。別の表現をすれば、文化は暗黙知であるが、文明は形式知である。したがって文化には言語化されないものも内蔵されるが、文明には言語化できるものしか含まれない。
日本は地理上の位置に加えて、鎖国という特殊な事情があったので、独自の文化に基づいて文明を形成してきた。しかし幕末の開国によって門戸が開かれ、その結果として異質でパワフルな欧米型の文明を知った。それは軍事、産業、政治、生活、芸術などあらゆる分野に及んだ。ただし、それらは全て言語によって表せるもの、すなわち欧米文化に由来する欧米文明に属するものだけである。かくして日本の新産業は、すべて西欧文明に基盤をおく技術に依存することになった。
このような西欧文明追随型のアプローチは、第4次産業時代までは概ね通用するものであった。しかし上述したように、今や西欧型の文明に基づく産業のあり方が揺らぎはじめている。途上国は別として、欧米先進国の経済・産業を覆っているのは深刻な閉塞感である。今後はおそらく凋落の一途を辿るに違いない。日本も従来の欧米型産業パターンを踏襲する限り、同じ悩みから脱却することはできない。しかし幸いなことに、日本にはとっておきの切り札がある。いままで等閑にしてきた固有の文化をベースにして、新しい産業文明を構築し直すことである。もちろん既に自家薬籠中のものとなっている西欧型文明は十分活用しなければならない。それに加えて、固有文化に基づく文明を交配させるのである。それには、お家芸ともいえる折衷技術を、さらに洗練させなければならない。
たとえばアニメや、ロボット、精密部品、炭素繊維などの新素材、さらには高級野菜や盆栽など日本の文化と文明に基づく技術でカバーできる範囲は驚くほど広い。これらの多くは見かけ上、西欧型の技術文明そのものである。しかしその根幹のところまで遡ると、多くは日本人が持っている「匠」の心に行き着くのである。いうまでもなく匠の技術は、日本文化が生んだ日本文明の精華である。この見方に立つと、日本の第6次産業は、もはや始動しているともいえるだろう。その具体例および今後の展開については、このブログで引き続きフォローしていくつもりだ。
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