2011年4月8日金曜日

風吹けば桶屋がもうかる

会議などで、理路整然と自分の考えを説明する人がいる。人前で話すのが不得意なものにとってはとても羨ましい。では理路整然とは、どういうことか。一般には、論理的であることだとされている。そこで少し突っ込んで、論理的とはどういうことかと、某大学教授に尋ねてみた。さすがに彼は言下に答えた。原因と結果のつながりや、目的と手段の連鎖を直線的に示すことであると。それを聞いて私は、落語の「風吹けば桶屋がもうかる」という話を思い出した。大筋は次の通りだ。「風がふく→土埃がたつ→それが目に入って盲人がふえる→盲人は三味線で生計を立てる→三味線には猫の皮が張られる→そのため猫の数が減る→猫が減るとネズミが増える→ネズミは桶を囓る→桶の需要が増える→桶屋が儲かる」
 たしかにこのストーリーには、因果関係の連鎖がある。しかし何か変だ。その理由は何だろう。その答えを一先ず保留することにして、ここで俄に朝日新聞の社説でしばしば見受ける語り口を思い出した。それは ・・・〇〇に通じる・・・ という文章である。以下にその例を示そう。

① 監視カメラに反対した朝日の社説
治安のよさで定評がある日本といえども、時には強盗が銀行やコンビニに押し入ることがある。また新宿の歌舞伎町では、通行人が路上で財布を強奪される事件もあった。これらの暴力を防止したり捜査に役立たせるために、警視庁は要所に監視カメラの設置を計画した。ただし、その画面には一般の人も記録される。つまり市民の多くが、その行動を当局に監視されることになる。これによって個人のプライバシーは侵害される。そして究極のところ個人の自由が束縛される。すなわち監視カメラの設置は、個人の自由の束縛に通じる・・・・・。
現在では監視カメラの設置は常識になっているが、朝日はまったく知らん顔で、その主張が間違っていたことには全く触れていない。

② 住民基本台帳カード(住基カード)に反対した朝日の社説
住基カードが一枚あれば、身分証明書、年金手帳、健康保健証、運転免許証、パスポート、納税証明書、各種許認可の申請など、個人が公民として必要になる書類の申請や作成が、一カ所で集中的にできる。逆にこれがなければ、上述の書類に関係するあらゆる役所に出向かなければならない。但しこのような各種のデータを一元的にまとめるには、国民一人一人のIDコードが必要になる。
しかし当時の朝日は、社説でこの計画に猛反対した。例によってその論拠は、IDコードは国民のプライバシーを犯すことに通じる・・・・。その論理を図式化すると次のようになる。

IDデータを作成する→データの悪用を企むものがいる(100分の1)→データを盗む技術を持つ者がいる(100分の1)→データを盗まれる人がいる(100分の1)→悪用価値のあるデータ(100分の1)→データを盗まれてプライバシーが傷つく(100分の1)

以上のステップごとに示した数値は、私が見積もった仮の値で、かなり少なめである。
 監視カメラの話と住基カードの話に共通するのは、因果関係の連鎖はあるけれども、連鎖が発生する確率に触れていないことだ。桶屋の例で言えば、埃が立って盲人の目に入る確率は何%だろう。また三味線で生計を立てる確率は何%か。仮にそれぞれの確率10分の1としても、連鎖の数が10であれば、最終段階で発生する確率は0.1の10乗分の1、つまり十億分の一に過ぎない。具体的な計算は次のようになる。 

0.1×0.1×0.1×0.1×0.1×0.1×0.1×0.1×0.1×0.1=0.0000000001

また住基カードについて計算すると、各段階の発生確率が100分の1と仮定したから

   0.01×0.01×0.01×0.01×0.01=0.0000000001

つまり百億分の1の発生確率になるのである。~に通じる~とか、論理的に語ることのいかがわしさは明らかである。我々はマスコミが画策する与論操作の論理には、十分注意しなければならない。

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