4月の初め頃から、東日本大震災に関する風評被害が、世界中に広がりはじめた。国際感覚の鈍い菅政権もようやく気にするようになり、4月16日の国際通貨金融委員会に出席した野田財務相は、各国に対し「科学的事実に基づいた冷静な対応をするよう」求めたという。しかし、その後も一部の国では日本からの輸入品について、放射線量について問題がないという証明を要求している。なかでも声高に問題提起しているのは中国で、とくに農産物と一部の工業製品をターゲットにしている。例によって問題認識の甘い菅政権は、その原因を正確な情報が不足しているためと判断し、実態を正確に伝えることで解決すると考えているらしい。
しかし強かな相手は、そんなことで納得するはずがない。この日本の不幸を千載一遇のチャンスと捉えて、攻撃の手を強めてくるに違いない。その理由は2つある。第1は、嘗て毒入り餃子事件や、農薬汚染農産物事件で恥をかかされた意趣返しである。あの事件以来、中国の農産物に対する不信感は、国外どころか国内にさえ浸透した。その一方で日本の農産物に対する信頼は高まり、輸入量は大幅に増大しつつあった。この傾向がさらに強まることは、中国農業の根幹さえ揺るがすことになる。いずれ何らかの措置がとられると予想されていた矢先に、今回の大災害である。まさに天佑と考えたに違いない。この国のやり方として、風評を利用するのはごく当たり前のことであろう。
風評をたてたりそれに便乗する理由の第2は、日本の工業部品に対抗する中国の産業戦略に端を発している。途上国や中進国が当面の政治体制を維持するには、国民の所得や生活水準を高めなければならない。文明生活の快適さを知ったこの国の人々は、ますますその欲望の度合いを強めるだろう。それを懐柔するには何としてもGDPを増やさなければならない。たしかにこの国のGDPは今や世界第2であるが、国民一人当たりでいうと日本の10分の1にも達しない。この格差を縮めるには、工業化を進めるのが最も妥当な戦略である。現時点における中国の成功も、まさにこの戦略のたまものである。しかし問題はこれからである。工業化を達成したと言っても、それはまだ中レベル以下のものであって、それ以上の高レベル製品をつくるまでには至っていない。かくして中国の工業化戦略は、以下のように日本を標的にした2本の柱で再構成されることになるだろう。
その1 中レベル製品の市場を、完全に日本から奪うこと。それには汚染部品の風評を流すことが極めて有効である。
その2 いま中国に進出し、高レベル製品を作っている日本企業を、風評によって倒産に追い込む。そのあと安値で設備と技術を買収する。
以上のように原発事故にかかわる風評は、極めて意図的なものであることに気付かなければならない。親中国を標榜してきた民主党政権も、今回の事件によって目が覚めたのではないだろうか。
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