清水博博士はその著作「生命を捉えなおす」で、生命を「動的秩序をみずから創出するもの」と定義している。この定義によれば、企業も一種の生命体といえる。動的秩序を創出するには、生命体は自らを維持するための代謝機能を備えなければならない。企業の場合のそれは、生産活動に該当する。外部から材料、エネルギー、情報を入力し、プロセスを経てプロダクトを出力するからである。
ただし生産を行うには、「意志」が必要だ。もちろん意志だけでは生産できない。意思の他にも数え切れないほどの要件が必要になる。たとえば、認識能力。これには環境認識と自己認識が含まれる。認識に基づく予測能力も欠かせない。デザイン能力や組織力、計画能力、さらにはコントロール能力も不可欠だ。しかも生産活動には常にリスクが伴う。つまり生き残るには幸運も必要だ。生産活動に必要な要件がすべて揃っていても、成功を保証することは出来ないからだ。はっきりしているのは、ただ一つ。意志のない経営は必ず破綻するということだ。良質で強固な意志があり、生産活動(代謝機能)に必要な要件を全て備え、しかも幸運に恵まれたとき企業は成功する。
ただし企業は生き物である以上、そのメカニズムは複雑だ。トップといえどもすべてを知って、コントロールすることはできない。この点も生命体としての人間によく似ている。近年における最先端の生命科学といえども、人体すべてのメカニズムを解明することはできないからだ。現在の医療専門家にできるのは、広義の対症療法と健康法だけだ。企業経営を研究する経営学の立場もまったく同じといえよう。企業経営に対応する自らの能力を過大評価せず、せいぜい対症療法か健康法の範疇に止まっていることを自覚するべきだろう。
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