2007年7月30日月曜日

生産はイデオロギーで管理できない

MRPはアメリカで開発された生産管理ソフトであるが、昭和40年代から日本の機械組立工場で普及し、生産管理システムの代名詞のようになった。現在ではこのシステムは、ITの発展にともなって更なる高度化が進んでいる。そのためERPという新たな名称で呼ばれることもある。しかし実際に工場の現場を見ると、MRPが仕様すなわち能書きどおりに使われている例は皆無といってよいだろう。使われているのはごく一部の、部品展開というサブシステムや受発注システムおよび在庫入出庫システムに過ぎない。工場の製造現場で最も苦労している進捗管理については全く役に立たない。それもそのはずで、そもそもMRPには進捗管理というシステム機能がないのである。しかしMRPにはなくても、進捗管理は現場にとって不可欠である。なぜならば、製造の現場では予期せぬトラブルや例外事項が頻発するからである。したがってMRPを導入したすべての工場が、自社固有の進捗管理システムを開発している。その補強によって、MRPはやっと生産管理システムとして機能している。つまり厳密にいうと日本で使われているMRPは、もはやMRPではない。一部にMRPの部品展開システムなどを組み込んだ別のシステムになっているのである。
 MRPがこのように有名無実になってしまった原因は何か。それは生産管理という実務の分野にMRP独自のイデオロギーを持ち込んだからである。MRPのシステムコンセプトは、計画通りに作らせるということである。もし計画通りに作れないとしたら理由は2つしかない。その1は計画がまずかったこと。その2は計画通り作らないこと。したがって1の対策は、計画をより一そう精緻にすること。2の対策は、計画通りにやらない現場に何らかの懲罰を加えることである。
 MRPが定着しなかった理由は、共産主義経済が破綻した理由とよく似ている。すなわち5カ年計画の例でみられるように、経済を机上の計画だけでコントロールできると考えたからである。何が何でも計画通りやらせるべきという発想は、現実を無視する意味においてイデオロギーである。その意味では、計画偏重のMRPも生産現場にイデオロギーを持ち込んだことになる。うまく行かないのは当然と言えるだろう。

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